(写真)アムステルダムへ向かう機内にて、オランダの新聞


朝6時起床。旅へとむかう冬の寒空は、緊張感とともに大陸の向こう側にある心地よい「匂い」を予感させてくれます。かのマルセル・プルーストもその地へと向かうに際して携えたという見巧者フロマンタンの著書をバッグに放り込み、いざアムステルダムへ。

「心地よい夕方で、あたりは灰色のヴェールを被ったようだ。運河の先は薄い靄(もや)に包まれている。この町ではロッテルダムよりもいっそうはっきりと、空気がオランダ特有の気持ちよい香りに満ちているのが感じられる。われわれがどこにいるかを知らせ、突然、独特の刺激を嗅覚に与える。実際に匂いというものは、あらゆることを教えてくれる - 風土について、極地や赤道からの距離について、石炭の産地から、またアロエの産地からの距離について、気候や季節や場所について、その他さまざまなことについて。多少なりとも旅行の経験のある者なら知っていることだが、煙がかぐわしく、炉の匂いが記憶に訴えかけてくるような国ほど好ましいものはない。(中略)
アムステルダムを的確に思い浮かべるためには、「北方のヴェネチア」というイメージを忘れていただかねばならない。アムステル川はジュデッカ運河ではないし、ダム広場はサン・マルコ広場ではないのだ。(中略)
この土地では冬が長く、太陽の恵みはあてにならず、光は乏しい。戸外でもの思いに耽るなどという機会はめったにないかわりに、閉め切った家の中に強烈な楽しみを求めることになる。このような土地では、眼にも精神にも魂にも、辛抱強くて注意深い探求の習慣、微に入り細にわたり、いわば眼を細めて凝視するような緊張感をはらんだ探求の習慣がつき、この習慣が、形而上学者から画家にいたるオランダのすべての思索家たちの共通の特徴となっている。」
(フロマンタン著『オランダ・ベルギー絵画紀行 - 昔日の巨匠たち』岩波文庫)

21世紀のいま、建築、都市計画、インダストリアルデザイン、グラフィックデザインの革新と実験が行われている今日の最重要拠点のひとつであり、強烈な爆発力を秘めた「ダッチ・デザイン」は、フロマンタンがすでに達観していたように、そこに住む人々の根底にある心象風景を鏡のごとく世界に提示したものといえるでしょう。
そこでは、技術的なノウハウ、クリエイティビティ、ウィットとアイロニーなどによって、既存の形やモダニストの原型が巧みにつくり変えられ、また解釈し直しされています。

さまざまなメディアを通じて伝えられる「ダッチ・デザイン」の潮流、近年にわかに脚光を浴びている隣国ベルギーのコンテンポラリー・デザインの現場をこの目で確かめたい、そういった強い思いと目的をもってこの旅は始まりました。